第2号 H10.7

巻頭
 「現世に生きる意義」

                住職 標  隆光


 梅雨が明け猛暑の日々が続く季節がやってきました。決して生活しやすい環境ではなく辛いことです。五感を備え、考え話せる事の出来る人間としてこの世に生を受け、この時代に生きることの意義を改めて考えて頂きたいと思います。
 根本仏教では三世と言って前世・現世・来世の繋がりがあると説き、六道(界)として地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上があり、悟りを開けない限りこの六道を輪廻転生するとされています。地獄道や餓鬼道は皆様良くご承知の「蜘蛛の糸」で登場するカンダタが落とされた世界です。
お盆の頃にお寺で施餓鬼会を行いますが、これは先祖供養の中でも救済の意味を持ちます。畜生道は理性を持たず本能のみで生きる動物を指し、修羅道は阿修羅と同じで善悪が心の中で対立し苦悩する性格を持つものを言います。次に人間界があり、その上に天人界があります。更にこの上には仏界があり、声聞・縁覚・菩薩・如来の四界があり、この間は佛の知恵を学び、悟りを開いて長い時間を経て到達します。
 前世のことは誰も覚えていません。しかし、この世に誕生したことは非常に大きな意味があるのです。
 今こうして生きていることの大切さを実感して頂きたいのです。では、どのような生活が求められるのかと言うと、この世(人間界)も毎日が修行の日々なのです。そのことを忘れてしまい殺生や盗み、騙したり陥れたりと自分よがりの生活をしていると後で必ず後悔することとなるでしょう。
 密教の教えには「即身成仏」と言う考え方があり一般仏教とは違っていますが、仏教の基本において生きることの大切さは同じです。後のコーナーで解説します。
 間もなく来るお盆と秋のお彼岸を前にして、ご先祖様の徳(人柄や性格・時代背景など)をご家族或いはご親族全員で改めて考えて戴きたいのです。


心の教育 2

  「善し悪しの判断と家庭教育」

 子供の先行きがどう成るかは親を見れば大体判断できます。子供は親を見て育ちますから、親がいい加減だと悪いことも、はっきり注意できなくなります。特に中学生頃に訪れる反抗期は理屈に合わないことは、まず受け入れようとしません。親の方も言葉では注意出来ても(中には注意もできない)行動が伴わないから、子供も言うことを聞きません。
 先日、遠方からご子息の事でご相談にお見えになったお母さんがおられました。お子さんはもう27歳ですが、働きに出ないで家でお酒を飲んでは気に入らないことがあると暴れるので困っているとのことでした。その原因について家庭に問題がないか伺ってみると、父親の子育ての方針に問題があることが分かりました。可愛さあまりの過保護でしょうか、子供は厳しさを知らず、また我慢することを体験せずに大人になってしまったのです。まだ小さな子供の居るご家庭では充分留意なされた方がよいと思います。
 次に家を飛び出し深夜になって帰宅する若者も多いと聞きます。男女を問わず不貞の誘惑に駆られて今を楽しむ風潮が強く働いています。人に迷惑をかけていないから良いとか、悪気はないとか、自分の勝手だからと言い訳します。長い人生の中で経験することが無駄にならず、また後悔しない考え方と理性ある行動をとり、自分の将来をしっかりと見定める事が出来るような家庭教育をしていただきたいと思います。
 良いことは誉め、悪いことは注意する。いつも叱ってばかりでは事の重要性が失われます。心を込めて、真剣に話し合うことを特に父親に求めます。父親の権威が失墜したとしてしても、ここぞと言うときは怖く重要な存在になってもらいたいと思います。善し悪しは自然に覚えるのではなく、日常生活の中で教えて導くこと(躾)が重要だと思います。


幸福を考える  2

   「苦 楽 を 分 け 合 う」

 昨今、法を犯す人が多いのは非常に残念なことです。我々が社会の中で生活する以上は平等に同じルールの中で生活するのが当然だと思います。このことは道徳で説くところの「人様に迷惑をかけない」ことや仏教で言う不殺生・不偸盗など五戒に通じると思います。その多くはお金(欲)が元で悪事を働く事が多いのも事実です。
 今日のような高度文明社会では、お金が第一優先され幸福すらお金で買えるかのような時代です。労働によってお金が手に入り生活が豊かになります。悪いことではありません。しかし、この中には暖かな思いやりの心がなければ、すさんだ機械の如く毎日を送らなければなりません。労働者には「ご苦労様」と言う気持ちを、報酬を得たら「ありがとう」という感謝の気持ちを無くしてはいけないと思います。
 お釈迦様はこの世は「苦」であると悟られました。四苦八苦と言う言葉はご存じだと思いますが、仏教の根本とも言える真理がその中に意味されています。後ページで解説いたしますが、苦を背負って生活している以上、助け合ったり、励まし合ったり、慰め合ったりして生活が成り立っていくことに気づいていただきたいと思います。
 一人では生きられない事実。他人も大切にしましょう。


写経会開催される

 第1回目は5月17日に第2回は6月21日に開催されました。「般若心経」というお経を写経しました。総字数276文字を心を込めて書き写しました。(写真)
 般若心経というお経は正式名を「大般若波羅密多心経」と言い、中国の僧・玄奘三蔵法師が漢訳されたものです。
 玄奘三蔵と言うお坊様は皆様も良くご存じの「西遊記」のモデルとなられている方です。元々仏教はインドで生まれ、お釈迦様亡き後、その教えは弟子達によってサンスクリット語と言うインド古来の文字で書かれていました。仏教が中国に伝わったのが二世紀ごろからでこのお経が訳されたのは5世紀頃のことです。この般若心経というお経は殆どの宗派でお唱えされており、テレビや映画などでお経が唱えられるシーンは必ずと言って良いほどこのお経です。私達にとって非常に身近なお経と言って良いと思います。
 このお経に書かれている内容は仏教の神髄とも言える「真理」について説かれ、また「色即是空 空即是色」と言う一度は耳にしたことがあると思いますが、「空」と言う思想について悟りを得るしるべが説かれています。皆様方も一度挑戦してみてはと思います。時間は40分位で筆ペンで書いて戴いても居ます。毎月第3日曜日午後一時半からです。

写経会に参加して 参加者の感想

 皆様初めての体験でスタートしました。まず

 お経というものがどんな成り立ちがあるのか。
 日本でどうして漢文で唱えられるようになったのか。
 般若心経というお経はどんなお経なのか。
 写経の意味はどんなものなのか
 書く人の心持ちはどうあるべきか
などを最初に勉強し理解された上で実際に写経に入っていただきました。

 初めて書き終えた皆さんの感想は、
 「下に敷いたお手本の字を移すことで精一杯でよけいなこ となど考えられなかった。」
 「難しい字があったがお経の意味まで理解できなかった」
 「気持ちを集中することや一心に行うことが普段では持てなかったので良い経験をした」
 「ただ変化のない人生を送るより、何でも挑戦して経験することで実りある人生になるので参加して良かった」
 「字のうまい下手は二の次と言われたが、筆字で上手に書けるように、上達を目標に今後も参加していきたい」
 「時間が気になり、雑になってしまったところがあったので次回は集中して雑念を払って書けるようにしたい」
 「初めてだったので肩に力が入り腕も疲れたが書き終えた達成感が何とも言えず良かった」
 「機会があれば一度体験したいと思っていたので、その経験が出来よかった」
 「書き終えてお茶を戴きながら、新たに知り合いになった方々と,いろいろな話を交えられて良かった」

  以上、今後も多くの方にご参加いただきたいと思います。


仏教から来た言葉

 四苦八苦 人間界には八つの避けられない苦しみがある
 八苦とは四苦とそれ以外に四苦があり合計で八苦と言う意味で、四苦と八苦で合計十二苦ということではありません。
 まず最初の四苦とは、生・老・病・死で、もう一つの四苦は愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦で合計八苦となります。
 生は生まれ出でる苦しみ、老は老いて元気がなくなる苦しみ、病は病気に掛かり回復するまでの苦しみ、死は死に至る恐怖に堪える苦しみ、愛別離苦は愛する者や身近にいる人との別れ(死別・生別)に堪える苦しみ、怨憎会苦は嫌ったり、憎んだりする人と会わなければならない苦しみ、求不得苦は求めるものが得られない苦しみ(きりがない欲望)、五蘊盛苦は五蘊(人間を形成する色〈物質〉・受〈感覚〉・想〈心に思い描くもの〉・行〈意志〉・識〈識別・認識〉)全てが苦しみを生み出す対象である。

 因果    原因と結果
 仏教では、この世に存在する物(現象も含む)は全て始まりと終わりがあると説きます。そして今ここに存在していると言うことは全て途中の状態であり、完成されたものでも、やがて朽ちていく因果にあります。行動や作用も同様で、今を悔やむのであれば過去を悔やみ、将来夢を叶えたいのであれば今を精一杯生きるということです。
 逆を返せば、今の状態を悔やんでばかりいると、今度は先の未来も思い通りにはならない状態になってしまいます。
 常に先を見据えどうしたら良くなるか考え毎日を送ることが肝心だと思います。


真言密教とは

即身成仏(この身は即ち、仏と成る)
 弘法大師様がお書きになられた『即身成仏義』には「万物のものは全て大日如来から生じている。その為どんなものも生まれながらにして仏と一体である。生きながら悟りを得て仏となれる。それには三密修行の実践によって達成される。」と説かれておられます。ここで言う三密修行とは「身口意の三つを指し、躰(手)に印(印契)を結び、口で真言を唱え、心に仏を感じる」ことを指しています。これを繰り返すことによって誰でも悟りを得ることが出来、仏と成れるという事が即身成仏です。前号では三密修行の「身」にあたる金剛合掌と言う印を覚えていただきました。今回は口にあたる真言を覚えましょう。


御真言を覚え、お唱えしましょう(願い事が叶います。)

不動明王御真言(慈救之呪)(災難除け)
 のうまく さーまんだー ばーざらだん
 せんだー まーかろしゃーだー そわたや
 うんらたー かんまん

薬師如来御真言(病気平癒)
 おんころころ せんだり まとうぎ そわか

光明真言(罪業消滅・仏法崇敬)
 おんあぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらはりたやうん


読者コーナー

 俳 句

惜し気なく 青き葡萄の 房おとす       甲西町 井上 光子

風吹いて つぶらみてくる 青葡萄       甲西町 井上 光子
 
涼もとめ 団扇の風と 風鈴の音         櫛形町   斉藤 秋子

年ごとに にぎわい減らす 蝉の声        櫛形町  斉藤 秋子

人の世の 定めと知れり 舞い蛍         標  隆光

 感想・ご意見

 創刊号を拝読して          東京都  伊藤 陽子 様

 読み終えて、この世に人間として命を与えられていることを無駄にせず、家族の幸せや世の中の平和に努力することの意義を教えて戴いたように思います。とかく時間に追われその日暮らしの毎日を送っていましたので、色々気配りや思いやりを持ってこれからの生活を送っていきたいと思います。

檀信徒の皆様からの投稿(俳句・川柳・短歌・ご意見・ご感想等)をお待ちしています。


行事案内

盂蘭盆棚経 八月十四日(金)舂米地区は午前中に、
 (檀家行事)     甲府方面は午後にお伺いします。
            ご都合の悪い家はご連絡下さい。

写経会 般若心経初心者向け 参加費 千円 納経料含
      月の第三日曜日 午後一時半より三時頃まで
           先着十名 電話にてご予約下さい。
          全てこちらで用意しますが、書き慣           れた筆等がある方はお持ち下さい。

 八月と十二月を除いて他の月の第三日曜日に開催します。九月は二十日です。途中から参加されても結構です。

 お知り合い等購読ご希望者がおられましたらご連絡下さい


 

前号へ****次号へ  「明王寺だより目次へ」  明王寺TOPへ 

 ご感想・ご質問等はこちらまで